熊野 ロンギ
これも季節は春、花真っ盛りの都の景色を描写した場面。東の国に住む病床の母を案ずる憂鬱な心とは裏腹に、車の窓から眺める華やかな都の有様が対比され、映画のズームイン、ズームアウトのような手法で描かれている。
心配事で滅入っているところを、気が紛れるからと無理矢理花見のドライブへ連れて行かれるイメージか。
詞章
河原おもてを過ぎゆけば。急ぐ心の程もなく。
車大路や六波羅の。地蔵堂よと伏し拝む。
観音も同座あり。闡提救世の。方便あらたにたらちねを守り給へや。
げにや守の末すぐに。たのむ命は白玉の。
愛宕の寺も打ち過ぎぬ。六道の辻とかや。
実に恐ろしや此道は。冥途に通ふなるものを。心細鳥辺山。
煙の末も薄霞む。声も旅雁のよこたはる。北斗の星の曇なき。
御法の花も開くなる。経書堂はこれかとよ。
其たらちねを尋ぬなる。子安の塔を過ぎ行けば。
春の隙行く駒の道。はや程もなくこれぞこの。車宿。馬留。
ここより花車。おりゐの衣播磨潟飾磨の徒歩路清水の。
仏の御前に。念誦して母の祈誓を申さん。