大原御幸 ロンギ
晩春の大原の長閑な景色を描写した場面。 遁世し心静かに暮らしているかと思える女院。この後語られる生々しい六道の地獄の有様とのギャップを演出するかのよう。
詞章
さてや御幸のをりしもは。いかなる時節なるらん。
春過ぎ夏もはや。北祭のをりなれば。青葉にまじる夏木立
春の名残ぞをしまるる。
遠山にかゝる白雲は。散りにし花のかたみかや。
夏草のしげみが原のそことなく。分け入り給ふ道の末。
こことてや。こことてや。げに寂光の静かなる。光の陰を惜めただ。
光の影も明らけき。玉松が枝に咲き添ふや。池の藤波夏かけて。
これも御幸を。待ちがほに。青葉がくれの遅桜初花よりもめづらかに。
なかなか様かはる有様をあはれと。叡慮にかけまくも。
かたじけなしやこの御幸柴の枢のしばしがほどもあるべき住居なるべしや。
あるべき住居なるべし。